永山智子(佐倉市美術館)

とても個人的なブールデルの話

ブールデルといえば、彫刻のある美術館の庭にはたいていひとつくらいあって、あ
あ、ブールデルね、といって済ます…というようなイメージで、改めてブールデル、
といわれると何にも知らない、ということに気づきました。
ひとつだけ記憶に残っていた「ブールデル」があったのですが、これも10年以上も
前のことなので、確かめてからでないと書けないと思い、昨日やっと行ってきまし
た。先日テレビで、離れ離れになった肉親を訪ねて海外に行くという番組をやってい
て、「人に会いに行く旅」っていいなあ、と思いましたが、昨日はブールデルに会い
にいく(1時間ちょっとの)旅、という気分でした。
「弓をひくヘラクレス」。記憶は間違っていませんでした。台座のキャプションを確
かめてから、まわりをぐるっと一周して、天井につきそうなくらい、すっと伸びた弓
の先を見上げると、初めてこれをみたときにも、こんなふうにみたような気がしてき
ました。初めての場所(美術館やギャラリーでない場所)に絵や彫刻がある、という
ことは、それがどんなものであるにせよ、とりあえずそんなものを飾ろうとする
「人」がここにはいるのだ、というある種の安心感のようなものを私は感じたのだと
思います。
それから毎日、朝には「おはよう」、夕方には「今日はこんなだったよ、じゃあね」
と心の中で話しかけながら、2年間、私はこの像の前を通っていたのでした。
千代田線新御茶ノ水駅の長い長いエスカレーターを上っていった駅ビルの1階にその
ブールデルは今もありました。

永山智子